店長日記

追憶 4
2013年10月08日
はかない と言ったら
稚えびの頃の私たちほど
はかないものは無い
20名ほどいた兄弟も
4,5名はあっけなく命を落としてしまった
それもまた 自然の摂理なのだろうか
またある時は
リセットと呼ばれる 底床の交換のため
生まれたばかりの 子供達が
床ごとさらわれた
生まれてすぐの透明な体は
人間には 見分けが付かない
そんな時は、隠れるのじゃなくって
思い切り大きくジャンプするといい
自分の存在をアピールすることも学んだ
私が初めて人間の網に 掬われたのも
このリセットと言う 引越し作業の時だった
馴染んだ村を捨て また新しい環境に生きる
新しい床の味 澄んだ水の味
新しい水は 凜として 身が引き締まるようだった
皆、気持ちが高揚し
ここでの新しい村作りに 精を出した
子供達も増えた
やがて私も若者と呼ばれるようになった
度々 網が入り
親しい人たちとの別れもあった
私の兄弟達も どこかへ新しく旅立って行った
私は何度か掬われたが
まじまじと 見られるだけで
また水の中に戻された
取り残されたような寂しさ
自分と彼らとの違いは 何か
人は何を基準に 私達を選ぶのか
私は長老に 聞いた
「そうさな、
お前の母親はもちろん 父親も美しい男だった
お前は両親に似た 美しい男だ
美しいだけでなく、強さもある
外に出ることも生きる事だが
ここで、子孫を残し
やがてここに住む者に 生きる知恵を授け
道を示す
それが お前の定めじゃ」
隣にいた 世話好きの ばぁさんは
「あんたは 凄いハンサムだから
人間は ここで子孫を残せって言ってるんだよ」と
笑った
容姿はどうあれ それが私に課せられた宿命なら
長老のように 物知りで 思慮深く 皆を見守り
ばぁさんのように ほがらかに
そんな生き方をしてみようと 思った
やがて 一年が過ぎた
私は 恋をし
沢山の子に恵まれた
幸せな日々が続き
このまま かつての長老のように生きると思っていた
そんな ある日
私は突然掬われた